2006.10.20

アンソロジー・ビデオ


今回の解説は主に2004年に「ディレクターズ・カット’93」として出回った海賊版DVDに付属の日本語解説書から転用しました。

私の解説は※印の部分のみとなります。


正規版と海賊版DVDボックスの全景。




1996年リリース版

(※注;本作品がDVD化されたのは2003年です。)

※初回プレスは赤帯で定価は15000円。

セカンド・プレスは緑帯で(たしか)18000円に
値上げされる予定でしたが好評につき定価据え置きという
告知がされて引き続き15000円で発売されました。


※ ビデオやLDをセットで揃えると4万円ほどかかっていたのですから
ボーナス映像も入って本当に安くなったものです。
といっても輸入版に比べるとまだまだ高いです。





ディレクターズ・カット’93年版




※さりげなく箱の底までソックリに真似てあるのがスゴイこだわり!!
正規版ではすべてイラストでしたが、こちらは本当の写真を使用しています。
っていうかイラストに書き直すだけの手間がかけられないですよね。

ブッチャー・カバーを使用しているところが海賊版らしくていいです(笑)。

発売当時は3万円ほどしていましたが、私はバーゲンで新品を7800円で購入。
海賊版は気長に待てば安く入手できる機会が多いです。





この文章で「リリース・ヴァージョン」が指すものは、96年にリリースされたビデオ・ソフトのみを指す。
95年末にTVで放送されたヴァージョンは使用された映像が一部「リリース・ヴァージョン」とは異なるため、
便宜上「放送ヴァージョン」として区別し、必要に応じてその差異を補足するにとどめたい。
また映像作品「ANTHOLOGY」という言葉に関しては、これら3つの異なるヴァージョンを全て指す場合に使用している。
映像作品「ANTHOLOGY」のオリジナル完全版といえるディレクターズ・カット93年版(以下1993年版)が初登場。

「発言」対「歴史的映像」
「1993年版」では決してライヴ映像が少ないわけではありませんが、あくまでビートルズのメンバーや
周辺人物が語る発言(インタビュー)部分を中心とした構成であるのに対し、「リリース・ヴァージョン」は
インタビュー部分を大幅に編集もしくは削除し(訳注1)、ライヴをはじめとする当時の映像を効果的に盛り込むことによって
退屈させない構成になっている印象を受けます。

番組全体のテンポを変更するという目的以外に、インタビュー部分に編集の手が入ったひとつの理由として
(さらに別の理由は後述)時間的な制約を挙げることが出来ると思われます。
当時としてはそれが考えうるベストの折衷案であったと思われますが、当然のことながら「リリース・ヴァージョン」で
新たに挿入された映像はカットされたインタビュー部分を補うものではありません。

ここで重要なのはどちらが優れているかを論じるよりも「1993年版」に含まれていたインタビューがカットされた理由を
考えることによってビートルズ側が大衆に提示しようとしたビートルズ・ストーリーの意図をさぐることが出来ることにあると思われます。
映像コレクターが持っている数え切れないほどの映像では知ることの出来ない事実が
含まれていることが「1993年版」の醍醐味であると言えるでしょう。

(訳注1)ジョンのインタビューは逆に増えている。4人の発言を均等なものにし、周辺人物のインタビューは減らされているように思われる。

未編集(未検閲)バージョン
映像作品「ANTHOLOGY」2つのバージョン(「1993年版」と「リリース・バージョン」)の重要な差異は
3人のメンバーとジョンの未亡人オノ・ヨーコの意向を酌み、「1993年版」の構成や内容に編集を加えた結果、
生み出されたものだということが分かります。
例えばヨーコ及び彼女がバンドに及ぼした影響を扱った場面は「リリース・バージョン」では半分以上が削除されています。
「1993年版」はメンバーによる未編集の赤裸々なコメントが飛び出し、そのインタビューの多くは
「アンソロジー・ブック」(2000年刊行)にも登場していません。
他にも1966年にLSDとの出会いについてジョージがコメントする場面ではジョージ、ジョン、パティ、シンシアのコーヒーに
LSDを混入した有名歯科医の実名までもがさらっと語られる部分が削除されずにそのまま残っていたり、
後にジョージの要望で部分的に削除され短縮された、曲作りに関する場面の長尺バージョンを見ることが出来ます。
つまるところ「1993年版」はディレクターとプロダクション・チームが製作し、バンドに提示したときのヴァージョン
(その後バンドは大幅な修正を要求したことは想像に難くない)であることがわかります。

各巻のイントロ

「リリース・ヴァージョン」では各巻がTの字が長い有名なロゴの下に映画「Help!」のオープニングの演奏シーンを
合成編集したものがイントロダクションとして使用されていましたが「1993年版」ではその代わりに未使用の
アニメシークエンス(初期の4人の顔写真がひとつに合成された画像)がイントロダクションとして使用されています。
VOL.1は合成された画像に変化のないうちにオープニング・モンタージュが始まりますが、VOL.2以降はここから
一人一人の写真が四方に分割された後にオープニング・モンタージュが始まります。

「In My Life」のオープニング・モンタージュ
「リリース・ヴァージョン」ではVOL.1の冒頭のみで使用されている「In My Life」のオープニング・モンタージュ(訳注2)は、
「1993年版」ではVOL.1から4まで使われています。

(訳注2)リバプールの映像から始まる「In My Life」がBGMの映像コラージュのことを指す。



パッケージの比較

1996年リリース版

※「1&2」のパッケージ。2巻分を1枚のDVDに収録しています。

※付属のブックレット(二つ折りを広げた状態)。日本版はさらに16ページの日本語解説書が付いています。




ディレクターズ・カット’93年版

※正規版とそっくりに作られたパッケージ。
なお、正規版は1枚のDVDに2巻分がまとめて収録されていましたが、93年版は1巻1枚づつの収録となっています。

※付属ブックレットの表と裏。(二つ折を広げた状態)




1993年版 VOL.1

「1993年版」で特徴的な箇所(リリース・ヴァージョンとの差異)
1940−1963

■「THE BEATLES」というグループの名付けに関して90年代のジョージが
「ジョンとスチュ(スチュアート・サトクリフ)の半々かな」と言及している。

■ポールとジョージの出会いを回想するシーンで「リリース・ヴァージョン」でポール、ジョージ、ニールの
学校での集合写真が使用されている箇所はニールの写真のみが使用されている。

■ポールがジョンとの出会いを回想するインタビューで「Twenty Flight Rock」を演奏するシーンは
かなり長く使用されている。

■1960年にポールの自宅などで録音されたと言われている「宅録ライヴ」の音声が別編集で
「リリース・ヴァージョン」ではイメージ映像も撮り直されている事がわかる。
また「リリース・ヴァージョン」では最後の「I’ll Always Be In Love With You」が
オープン・リールのテープ切れで終わるという演出がなされているが、ここではそれがない。

■ピート・ベストがストリッパーと夜を明かしたことを詳しく紹介。

■ハンブルグ・ツアーの様子を伝える映像コラージュが異なる。
別映像が使われておりStar Clubでのライヴ音源を使用したメドレーに「Sheila」が含まれている。

■当初EMIのオーディションとして行われた1962年6月6日のセッション終了後、ジョージ・マーティンに
「何か気に入らないことがあるならいいなさい」と言われた際にジョージが「あなたのネクタイが気に入りませんね」と
ジョークで返した有名なエピソードが紹介されている。

※オープニングのメニュー画面も正規版とソックリで凝っています。
4人の顔の合成写真でスタート。ここではバックに音楽は入っていませんが、この後から「イン・マイ・ライフ」が流れて
デビュー直後と映画「レット・イット・ビー」からの映像が交互に挿入されています。
未使用のポールのインタビュー
「1993年版」VOL.1とVOL.2には未使用の(黒いYシャツの上に一見水玉模様のようなベストを着ている)ポールの
インタビューが含まれています。
これは最終的に(黒のタートルネックを着てヘフナーやゴールド・トップのレス・ポールが画面に映っている)撮り直したインタビュー映像に
差し替えられました。撮り直しに伴い話の内容が若干異なっています。
未使用のニール・アスピノールのインタビュー
「1993年版」VOL.1とVOL.2で見ることができるニール・アスピノールのインタビューでは彼は帽子をかぶっておらず
「リリース・ヴァージョン」とは話の内容が若干異なっています。
一部未使用のジョージのインタビュー
「1993年版」VOL.1とVOL.2で使用されているジョージのインタビューは、
自宅スタジオのコントロール・ルームで撮影された口髭を生やしたもののみとなっています。
これは後に半分以上が削られ、撮り直したインタビュー映像(口髭は剃られている)に差し替えられました。
削られたインタビューの多くは未使用のままで、ポールと同じく撮り直しに伴い話の内容が若干異なっています。
■ピート・ベストをクビにした後、ピートのファンに殴られてついたジョージの目の周りの黒アザについて
本人が黒アザがついた時の状況を詳しく解説している。

■ジョージ・マーティンがリンゴの代わりにセッション・ドラマーのアンディ・ホワイトを用意していた1962年9月11日の
「Love Me Do」を含むレコーディング・セッション時のエピソードに割いている時間が長い。

エンディング
「1993年版」ではバンドの発展をイメージした映像で終了しています。
例えばリバプールからロンドン、イギリスからアメリカへの進出を「Free As A Bird」のプロモ・クリップのような視点で
飛んでいくといういったイメージ映像です。
また、「1993年版」ではエンディングのクレジットはありません。

オーディオ・アウトテイク
「1993年版」ではスタジオ・アウトテイク音源はほとんど使用されていません。
「リリース・ヴァージョン」の各巻巻末に収録されたようなオーディオ・アウトテイクのコラージュは製作されておらず
1968年のシーンまでは本物のオーディオ・アウトテイクは聞けません。
オーディオ・アウトテイクは製作の初期段階では検討されたもののプロダクション・チームは利用できませんでした。


リリース・ヴァージョン VOL.1

非採用となったオリジナルのアイデア
「1993年版」では後に修正されたり完全に削除された多くのアイデアが含まれています。
ラジオ・インタビューなどのバックに流れている60年代当時のビートルズ・ファンの部屋を再現したシーンも
(小さい差異の箇所もありますが)大きく異なっている箇所があります。

主にツアーを紹介する祭に製作された映像コラージュは後にほとんどが非採用となりました。

また、最初のアイデアではリバプールからアビイ・ロード・スタジオまでに出かけた際の回想シーンで使われているイメージ映像は
「リリース・ヴァージョン」よりも長尺でアビイ・ロード・スタジオ外観や内部の映像(ほとんどが90年代の映像)を含むものでした。

また、ポールとジョンの出会いを回想し「トウェンティー・フライト・ロック」を演奏しるシーンをTV枠にはめ込むことで
ポールが映画「女はそれを我慢できない」に出演しているかのように見せるアイデア(訳注6)も見ることができます。

これら以外にも多くの未使用のイメージ映像、コラージュ映像を全巻で見ることができます。
(訳注6)この演出は「放送ヴァージョン」では見ることができる。






1993年版 VOL.2


フラッシュ・バック・モンタージュ
「1993年版」のVOL.2はVOL.1の重要なシーンを、VOL.3とVOL.4はVOL.1から前の巻までの重要なシーンを
断片的に繋げたフラッシュ・バック・モンタージュが入った後に本編がスタートしていますが、このアイデアでは巻を追うごとに
本編スタートまでの時間がダラダラと長くなってしまうためか、VOL.5以降はこの部分は短く編集されています。

「1993年版」で特徴的な箇所(リリース・ヴァージョンとの差異)

1964
■デレク・テイラーに多くの時間を割いており、彼についてのコメントや、彼が一時期ビートルズとの仕事を辞めた経緯を詳しく紹介している。

■扁桃腺の手術のためにリンゴが終盤から参加になったツアーが詳しく紹介されている。
ジョージの「電球をひとつ交換するのにビートルズが何人必要でしょう?」という有名な発言を聞くことができる。

■「キャント・バイ・ミー・ラヴ」の録音についてのジョージの未使用のコメント。

■ハリウッド・ボウルでのライヴ・レコーディングの詳細。ジョージ曰く「クズだったね」。

※「VOL.1」では4人の顔の合成だけが10秒ほど使われただけで、この部分にBGMは使われていませんでしたが、
「VOL.2」では「イエスタデイ」「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」
「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の4曲が混合して流れていますが、一人づつの顔の登場に合わせてそれぞれの曲が単独で流れます。
デレク・テイラー
「1993年版」では登場場面が多く、「リリース・ヴァージョン」では未使用のインタビューが随所に見られます。

※「VOL.2」では冒頭部分に「VOL.1」の映像がダイジェストで収録されていますが、
この時間は約7分も使われていてやはり不要な部分と感じてしまいます。
マルの紹介場面では映画「レット・イット・ビー」で金槌を叩くシーンも使われている。

※「モーカム&ワイズ・ショー」の部屋の壁が爆発するシーンで登場してくるビートルズですが、
やはり日本語字幕つきでぜひ見たい番組です。
※最後は鳥のイラストが世界へと羽ばたいていくイメージの映像です。





リリース・ヴァージョン VOL.2

※当時のファンの部屋の中を再現したような映像が追加されました。
一部ですが珍しいカラーのライヴ映像も追加されています。
※イギリス国内ツアーの移動をイメージした白いバンの映像に93年版にはなかったイギリス各地の地名がテロップで流れます。
ジョンのインタビュー音声のみの部分ではその後年の映像が使われています。



                                    続く
                                     ↓
                             アンソロジー・ビデオ VOL.3&4






























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